アドヴェントカレンダー15日目・美しい衣装

クラシックの演奏会で弾くときは、女性は長いドレスを着る人が多いですが、オーケストラの席ではパンタロンの人も増えましたし、男性と同じようにジャケットに白シャツの人もいます。

また、ミニスカートでマルタ・アルゲリッチが素晴らしいピアノを披露するようになった頃、オルガニストのマリー=クレール・アランもミニスカートにハイヒールでパイプオルガンを演奏しました。60年代のフラワー・パワーがブラジャーを燃やしたあとは、女性は全くの自由になった。

でも男性は19世紀からほぼ変わっていないというのはなんだか不思議なことです。

男性の強固なボウ・タイ姿に敬意を表してなのか、女性の蝶ネクタイ姿は稀です。普段はジーンズにセーターの男の子が、白いシャツに白いボウ・タイ姿になっていると「おおー!」と女性からも称賛の声が上がります。


ところが、演奏会前、素敵な衣装に着替える時、オーケストラや合唱の更衣室が一個しかありません。ベルギーでは99%男女ごっちゃ混ぜです。これについて、初めは不思議に思っていましたが、クラシック界には「男女のどちらが弾いてても関係ないだろう」という当然と言えば当然の前提があります。コンクール時に国籍、肌の色、性別が分からないように薄い幕の向こうでジャッジしたりするし、教会のオルガンともなれば、顔も姿も全く見えないことがほとんど。着替える時は姿も顔も丸見えなんですけどね。。。いや、これ説明になってないな。


服はばっちり燕尾服トップに白いボウタイでも、男性がごく普通に髪をお団子にしていたり、普段から裸足の人もたまにいます。いや男性もかなり自由?!


色合いが同じで、みんなお揃い風にする、でもそれぞれの弾きやすい格好というのがあるのです。それぞれ、細部にいろんな違いがある。


女性で昔と変わらないロングドレスの人がいたとしても、長袖の人は21世紀では極めてレアになっています。ロングドレスだと嵩があって舞台で映える、という部分は踏襲しつつ、上半身はほとんど裸?!下着!?ぐらい、はだけたドレスが多いです。これは女性の権利とかとは関係なく、ただかっちりした形の袖があると弾きにくいのです。実際にやってみるとわかるのですが、両腕が剥き出しだと非常に弾きやすい。舞台に出る前に冷えないようにすることはもちろん大前提ですが、弾き出して熱量がわーっと高くなると、カーディガンなども「ええいじゃまくさい!」みたいに引き剥がしたくなるものです(共感してくださる方いますか。。。?)。


そんなわけで、オルガンの陰で演奏する私も、ドレスの、下半分がパンタロンになった、最近よく見る「コンビネゾン」という服を着ます。これだとウエストの締め付けもないし、袖なしなら本当に弾きやすいですし、ペダルも問題なく弾けます。


このタイプの服が出てきた15年ほど前、私は「こんなフォーマルなズボン型のワンピースあるんだ!」と嬉しくなり、すぐに黒のコンビネゾンを購入して、未だに使っています。その頃持っていた服で一番高価だったのですが、本当に買ってよかった。その後、時々見つけては買い、とやっているうちに、現在ではコンビネゾンを全4着持っています。全部いまだに現役。

ただ、教会オルガンだと、お客さんは演奏者の姿は全く見ないままで終わる演奏会もあります。かと言って、前もって何を着るかは決めておいて現地に行ったらそういう状況だった、と後からわかるものなので、美し目の衣装は不可欠なのです。


男性は演奏会のたびに違う格好をする習慣もないので、羨ましいなと思う部分もあります。悩むのはめんどくさいとはいえ毎回全く同じというのも面白くないので、私は一つ演奏会が終わると、次の演奏会に何を着るかを即考えます。ボタン取れてたとか裾上げが剥がれてたとか、ギリギリのアクシデントを防ぎます。


時々着物を着てミサを弾いたり、コンサートを弾いたりしていますが、それはレパートリーがペダルをほぼ必要としていない時です。着物のときも、次は着よう、と思ったら長襦袢の半襟がついてたかなとか、どの長着とどの帯にするかとか、決めておきます。

何を着るとしても、決めておくとなんだか安心して練習に身が入ります。


オーケストラか合唱の通奏低音の時に、黒い着物があったら着たいのに、と思って探しましたがなかなか真っ黒で模様なしの和服は存在しません。

あの格調高い黒留は、迫力ありすぎて通奏低音伴奏には不釣り合いですし。お琴の師匠の人が「本番は黒留で弾くのが決まりですが、正座して演奏するので黒留袖の素晴らしい裾もようが見えなくて残念なんですよ」と言っていたことを考えると、和楽器の世界では黒留が黒いドレスと同等ということのようです。そして模様が見えなくても、美しいものを着るのはやはり前提のようです。


もしも、模様がなくて黒い少し軽い感じの布地の(お召とか。縮緬とか)着物をあつらえることができるなら、きっと小袖風に短い袖にして、裏にクリーム色の布をつけてもらおう。なんて、想像もします。帯は木目みたいな模様の焦げ茶の袋帯。袋帯は格調高いですし、私は袋帯で全然演奏できます。着物は腕の締め付けがないから演奏には最高だし、お腹がキュッと力を込めやすいのでオルガンは弾きやすいし、歌えば高い声を出しやすい、と私は実感しているのです。


男女ごちゃ混ぜの着替え室で、いきなり四メートルの袋帯を締め始めたら、周りの人はきっとびっくりしてしまいますね。やってみる勇気、自分にあるのかな?


追記💟

濃い紺色、濃い紫、濃い茶、など着物の生地にはほとんど黒に見えるものもあります。でもスポットライトが当たるときっと色が浮き出してくるでしょう。色というのは不思議なもので、煌々と光の当たる舞台の上で黒を着て演奏するからこそ、体の動きがより美しく見える効果があるのだろうな。







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