アドヴェントカレンダー3日目・音楽の人は(3)どう企画するか

 どう企画するか?

それを、音楽大学では習わないのではないか、とみなさん思うかもしれません。

学校によるかとは思いますが、当時4年制だった学部終了時に、ロンドン王立音楽大学では

「テレフォンサーヴィス」

(だったかな?三十年前のことです)

について大学ホールで説明会があったのだ。

それと企画とどう関係あるのかというと。


そうですそのころはどこも有線の黒電話。いや白いのとかグレーの電話もちょっとはあった。だけどファックスすら、まだ商品化されていなかったわけですからいわんやパソコンをや(古文、これであってますか?)。

ちらっとその片鱗的に、パリに行った時、友人が「ミニテル」とかいう訳のわからない小さなテレビで引越し先の不動産情報を調べてて愕然としましたが、そんな時代。

「企画ですよ奥さん!」

という話が持ち上がったならば、奥さんは黒電話の前で日がな次の情報が入るのを待機するシステムだった訳です。

当時、若かりし娘っ子だった私は

「それじゃどうやってオルガンの練習をしに行けば良いのであろう」

と途方に暮れてしまいました。

当然、お手紙がくるのを待って、企画に合意しましたと返信を書き、封をして、切手を貼って郵便局に行ってポストに投函すれば良いのですが、返事が遅い!となってしまって他の人に仕事が行ってしまうのではないか、とオルガニスト競争率の半端ないロンドンで揉まれた私は、戦々恐々としながら卒業を目の前にしていました。


さて「テレフォンサーヴィス」の代理店の人は、そんな青い顔をした音楽家のひよこたちを集めて、おんどりならぬ鶴の一声!

「あなたの家の電話番号を私たちに託してくれれば、企画が舞い込んだ時、代理で瞬時にメッセージを受け取りますよ」

「それもマネジメントではないので、勝手に返事することはしません」

「番号を託してもらっても企画が入ってこなければ手数料は取りません!」

と、『もうあなたたちもこれで大丈夫!』という気持ちにさせてくれたのでした。


とはいえ、そこで「企画に乗る方法」の一端を提示されただけで、それ以降(本題じゃないのについ長くなった)、誰も「どうやって企画するのか」教えてくれたことはなく、演奏家は企画が来るのを待つべし、のような妙な意地と言いますか自作自演するものじゃないみたいなクラシック演奏家にありがちな「企画を持ち込んでも良いのでしょうか」という遠慮が、心の奥にありました。


演奏会の依頼のメールや電話が届くたびに、ロンドンでの「電話を取り損ねたかもしれない若い私」を思い出すし、依頼されないような内容で「やりたいことがあるのですよ」と発言することができる日がいつかくるのだろうか、と全く自信のかけらもない20代でした。


が、オルガニストとして一人で企画して一人で弾いて、と一人で細々するしかないのかと思いきや、私が企画なるものに足を踏み入れた時、気がついたのは周りに

「いいじゃない、それやろうよ」

と楽しそうに言う人が二、三人いた、ということです。

資金のようなものは、どこを探しても見当たらなかったのに、数人の人が、

「面白そうだよ」

と、言ったことで、企画がどんどん走り出して行った。私も言い出しっぺの責任だけは取らないと、という思いから資金集めに走りました。そのようにして私は企画の糸を手繰り寄せたのです。


そして時代は変わり電話線は消滅し、私のポケットにはいつでも自分で返事できる「テレフォンサーヴィス」が入っていると言えます。いろんな人がいろんな企画を思いついては、声をかけてくれます。資金と日程とが合わなければ、長続きする企画は立て得ないのですが、出だしでは手弁当でも、中盤でも自転車操業でも、その時たまたま出会わされた数人の「有志」の人と力を合わせて、演奏会なりハプニングなりの当日を迎えて演奏し、いくばくかの共感を共有します。


反面、物品販売については、あるアーティスト(絵描きさん)と合同で演奏会展覧会の企画を行った時、その絵を売るときに絵描きさんの心が張り裂けそうだったのを私は見ました。

自分の魂の様なものに値段がつけられることも、一点もののその絵が自分の手から離れていくことも、企画の中では当然一つの目標として挙げていた訳ですから、その日は成功の日だったのに、なんと悲しい日だったでしょう!


私は演奏を売っているでしょうか?

演奏の企画の成功とは、切り売りの集大成でしょうか?


企画とは、私は「音楽を通じて、誰か他の人にも仕事をしてもらうこと」だ、と今は思っています。

私が「やってみたい」と言い出すことで、その周囲の人たちが動かざるを得ない。それが企画だなあと、今までの体験から思います。そしてみんなが利益を得られるのなら、仕事をクリエイトしたといえます。


音楽の人は、どう企画するか?

「やってみたい」

ことをたくさんたくさん心の袋に貯めておいて、目の前に誰か来たときに何かが起こる可能性を増やす、これが第一歩だと思います。そして紙とペンを持ってきて日程をきめていく。あとは弾くだけ、となるまで、色々頑張る(この辺りはどんな仕事も一緒ですね)。


企画の企は「企む」という動詞ですよね。

脳みそを絞り、他人のやってないことの間隙を突いて企んでいく。

画の字の方は「思い描く」そういうふうに思えば、なんだか自由にどんどんアイディアが広がっていきそうです。


***


追記😌

対等に思える人と一緒に企画が始まることもあれば、相手のことをすごいなと思うばかりになんとなく自分を低く思ってしまう中での企画もあります。自分の主観的な価値は置いといて、相対的に自分がどんなポジションなのかは、まあわかっているものなので、それはそれで受け入れるだけだなと私はいつも思う。居心地の悪さがあっても「それは保留」というボタンを押して、対等じゃなくてもいいじゃない、と。競争が激しく、コンクールや演奏のレベルで相手を見ることがごくごく当たり前に思える音楽界。でも、「人間的な意味で対等に思える人」との仕事が、あとあと残って、企画が続いたら、それが一番幸せだな、と思う。





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